「湿痺」とは、これも風痺と同じくその名の通り湿気の影響を受けて起こります。 「湿痺」の事を知ってもらう前に、それを引き起こす「湿気(湿)」について知っていただくとより理解が深まります。
湿気(湿)とは
中国の古典に、「湿気(東洋医学では”湿”と呼びます)」についてこう書かれてあります。
「湿に因りては、首裹(つつ)まるるが如し。湿熱攘(はら)わらざれば、大筋緛短(ぜんたん)し、小筋弛長(しちょう)す。
緛短は拘(こう)たり、弛長は痿(い)たり。気に因りては腫たりて...陽気及ち竭(つ)く」
【黄帝内経素問 生気通天論篇より】
訳:湿気に身をさらしすぎると、頭が重く、腫れぼったく、ものに包まれた感じになる。湿気と熱が合わさって身体から取り除かれないでいると、大きな筋肉は、短く縮まって伸びなくなり、小さな筋肉は反対に緩んで長くなる。緛短とは縮むこと、弛長とは痿えることです。もし気が虚(少ないこと)してくると腫れてくるようになってしまう...これの原因は、すなわち陽気が衰えてしまったことにあります。
このことをまとめますと
湿気(湿)は
・身体、特に頭を重だるく感じさせたり、むくみを生じさせる。
・筋肉の働きを損なわせてしまう。(そこに炎症が起これば縮まりやすくなる)
・その原因は、陽気(体を温め血液や水分を動かすエネルギー)が衰えてしまうことにある
湿の語源
中国では湿の漢字をこう書くそうです
「溼」
さんずいは、「水」。糸2つは、水が流れ降りる様子。糸の上に一があるのは、「蓋」を現しています。
この漢字の成り立ちからうかがうと「湿」は、土に吸収されるはずの水が蓋をされる事によって動きが悪くなり、行き場のなくなった水分を現しているんですね。
つまり、「湿」とは、水は水でも、動きがなく他のものに浸透しない様な水の事を言って、川底に溜まりやすい泥の様な存在です。
人体に発生する湿
人体を流れる水分のことを「津液」と呼びます。これは清らかな川の水に例えられます。清らかな水は、動きがあり命を育む性質があるのですが、反対にこの「津液」の動きが停滞し汚濁してしまうと「湿」さらに悪くなると「痰飲」という病理産物に変わってしまいます。 「湿」や「痰飲」は身体の脂肪やむくみの原因になります。
人体に湿が起こってしまう原因として第一に「飲食の不摂生」、その次に「運動不足」になります。
自然界の湿
湿度が高い場所に、居続けると「湿気(湿)」が溜まりやすくなります。
湿度が高い季節に運動しても汗をかきにくいって事がありますよね。それは、湿気によって皮膚の汗腺の不感蒸泄(汗腺から水分を蒸発させること)が行われにくくなるためです。←外界の湿気によって汗腺が蓋をされてしまうことによって外側への水分の移動が滞り、体内に「湿」が生まれやすくなります。
湿痺というのは、そういった湿気の働きによって強く人体を犯された状態のことを言います。
湿痺による症状
・痛むところが固定している
・痛みとシビレが伴う(湿の粘滞性によって血流も悪くなり、組織が栄養されない状態)
・体が重たい
「湿気」の働きによって起きていることがうかがえますね。
湿痺の改善方法
湿痺の改善方法として「湿」という身体に留まった余分な水分を動かし排出させることが一番の目的になります。
先程も述べましたが、「湿」を身体に溜めてしまう原因は、「飲食の不摂生」と「運動不足」です。
「飲食」による湿痺の改善
「飲食」で言えば、食べ過ぎ、水分の摂り過ぎ、甘い物の摂り過ぎ、味付けの濃いものの摂り過ぎ、油ものの摂り過ぎ、生ものの摂り過ぎを控えることです。【結果「湿」が「尿」や「便」によって排出されます】
そうすることで粘滞質な体の水分(湿)が清らかな身体を栄養する「津液」に変わることで改善されていくんですね。
「湿」を清らかな「津液」に変えるのは、1、2日では難しいんですね。せめて1、2週間くらいは、見ておいてください。浄水場の汚水を処理する感じで、人体の汚濁した水分(湿)も処理されます。
反対に摂り入れることで改善するには、小豆やハトムギ(はとむぎ茶)がオススメです。
小豆の皮には、利水する効果があるので、小豆はなるべく外皮が残るくらいの硬さでスープにして摂取するといいかと思います。ぜんざいはあまりオススメしません。
ハトムギにも利水効果があるので、尿からの「湿」の排出を後押ししてくれます。
「運動」による湿痺の改善
「運動」で改善するには、身体が温まるくらいの運動がオススメです。身体が温まることによって、「湿(脂肪やむくみ)」も温められ定着している部分から動きやすい状態になります。「湿」が動くという事は、川底の泥水が川の流れによって泥が払われ綺麗になっていくさまと同じ原理です。人体により親和性のある「津液」に変わり、あるものは身体を栄養し、またあるものは「尿」や「便」や「汗」から排出されていきます。
激しい運動では、そうはなりにくいんです。なぜなら激しい運動になれば、疲労しすぎた筋肉を栄養するために「血液」が使われるんですね。「血液」も液体ですから水分(津液)です。そうすると相対的に水分量が減るのですが、減った分だけ血液や体液の流れが悪くなります(のどの渇きや筋肉痛がその現れです)。西洋医学的に言うと血液中のアルブミン(体液の量をコントロールするたんぱく質)が激しい運動によって破壊されそれが尿として排出される現象です。結果的にむくみを生じるんですね。運動した後に足がむくむ現象がありますが正にそれです。なので激しい運動では、無意味ではありませんが身体の「湿」は改善しにくいんです。これは覚えておいてください。
穏やかな一定の強度で身体を動かすことで、身体に溜まった「湿」を温めながら動かし、その余分な水分を汗腺や膀胱や腸管へ移動させることで体外に排出させることができます。
冷めた鍋にある肉や魚料理で出た「煮凝り」を良い火加減で溶かしていく感じと同じです。火力が強すぎるとドロドロになります。
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