欧州の代替食として昆虫食が話題となっている。
欧州員会では、2022年の2月にゴミダマムシの幼虫、イナゴに続いてコオロギを3番目の”新規食品”として公式に認証したそうです。
昆虫食が推奨される理由として、環境負荷が小さいこと・たんぱく質が豊富で栄養価が高いこと、生産・加工がしやすいことがあげられている。
生薬としての”虫”
漢方はいくらかの生薬(葉や根や実を乾燥させたもの)からできているということはご存じだと思われますが、それ以外にも動物の胆や角、虫を乾燥させものを乾燥して煎じて飲んだ時代が昔では当たり前のようにありました。
今でも虫の生薬で使われるので有名なのは、蛭(ヒル)です。
生薬の名称では、水蛭(すいてつ)といって女性の瘀血疾患に用いられます。
コオロギの話に戻りますが、日本の歴史から見るとコオロギはイナゴと違って食用になったことはありませんし、昔は西日本の一部の地域で昆虫薬として使われていたそうですが、日本漢方ではコオロギを生薬として扱った形跡が見られません。
なので日本の文化ではコオロギを食や医学として扱った文化は無いということです。
本草綱目拾遺(ほんぞうこうもくしゅうい)の生薬としてのコオロギ
SNSで本草綱目(今で言う漢方や生薬図鑑みたいなもの)について記載があったのでこちらでも調べたところ、
本草綱目拾遺(著:趙学敏 1765年刊行)にコオロギ=蟋蟀(しつそう)と記載がありました。
漢方医学大辞典より引用
出典は「本草綱目」。別名は将軍。蛐蛐。コオロギ科昆虫コオロギGryllulus chininsis Weberの全虫である。江蘇・上海・浙江・河北に主産する。性味(気味)は辛・鹹・温、微毒。膀胱・大腸・小腸経に入る。効能は利尿消腫。臨床応用は尿閉、水腫、気張を治す。
2~6個を煎服し、或いは1回1~2個を焦がし焙って粉末にして呑飲する。妊婦は禁忌。
SNSで皆さんが気になっているヵ所は、”妊婦は禁忌”の所です。
なぜ妊婦は禁忌なの?
これを紐解くにはコオロギの生薬としての働きについて注目します。
性味(気味)は辛・鹹・温、微毒。膀胱・大腸・小腸経に入る。効能は利尿消腫。臨床応用は尿閉、水腫、気張を治す。
の部分が蟋蟀の生薬としての働きを指しています。
辛味は外向きに熱を発散させる働きがあります。
鹹味は熱を和らげて下向きに降ろす働きがあります。
つまり辛鹹温の働きは、温めながら下に降ろすという働きが出てきます。
だから利尿消腫といって尿から余分な水分を排出させて水腫を取り除く作用が出るんですね。
微毒ではありますが、蟋蟀を妊婦さんが服用すると赤ちゃんが降りてしまうリスクがあると言われているんですね。妊娠時は身体の変調をきたしやすいのでこういったリスクを避けるべきだと作者は言っているんだと思います。
原文(中国語)
《纲目》于灶马下,附促织。仅列其名,云古方未用。附此以俟考。
性通利,治小便闭。○《药性考》:蟋蟀,辛,咸,温。能发痘,胜于桑虫。
治跌蹼伤小肚,尿闭不出。○《养素园集验方》:用蟋蟀一枚,煎服,立验。
小儿遗尿。《慈航活人书》:取全蟋蟀一个焙末,滚水下,照岁服,如儿十一岁者,每次服一个,服至十一个为止。
治男妇小水不通,痛胀不止。○《集听》:用蟋蟀一个,阴阳瓦焙干为末,白滚汤下,小儿半个即通。
催生。赵际昌云:斗虫之戏,蟋蟀最盛,其百战百胜者,俗呼为将军。其虫至冬必死,勿轻弃去,留以救产厄,神验。凡产不下,用干者一枚,煎汤服,即生,并无横倒之患。(许景尼云:斗蟋蟀家,冬则封盆,待其自死,成对干之,留为产科、痘科用。须成对者入药。)
治水蛊。朱烺斋《任城日钞》云:促织,可治水蛊。昔有人患水蛊,百治不效,一日偶饮开水,水中先有促织一对在内,其人仓卒一并吞之,越数日,其病渐消,方知促织可治此症。后传此方数人,无不验者。一对不足,连服二、三对自效。
原文を見ると
子供の遺尿や小便の出が悪い時に用いると書いています。
漢方医学大辞典にも利尿消腫と書いてありますので、身体に溜まっている余分な水を腸管や膀胱から排出させる働きがあります。
この文面からも妊婦に用いることを禁止する理由が分かります。
調べてみて思ったこと
この欧州の昆虫食の推奨は安易に日本では取り入れるべきでないと思います。
食文化や医学の違いはどうしてもその国ごとに出てくるものなんです。
暑い国の人は、毎日太陽にさらされて肌の色は黒くなったり熱を放出する体の機能や食文化が備わっています。反対に寒い国の人は、寒さから体を護るために体毛が濃かったり、身体を温める食材を取って現在に至っています。
土地の環境やそこで生育する食べ物、それを食べて来た祖先のこと、そうした背景があって今の自分の身体が作り上げられていることをまずは考えなければなりません。
外国で流行しているから、専門家が推奨しているからといって安易に決定をするものではないと私自身は思っています。
今回の件といい日本の食料事情といい、より日本人の食の健康は日本人ひとりひとりに委ねられている時代に入っていると感じます。
若輩でまだまだ経験不足の鍼灸師でありますが、昔の大家の先生方が日本人の健康を守ってきたように、現代の日本人の健康が守れるように皆さんへ正しい情報を送り届けられたらと思います。
ここまでお読みくださってありがとうございました。
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